太古の世界にタイムトリップできたら?モンテッソーリと適応について

ガルダ湖イタリアより、こんにちは。残暑お見舞い、申し上げます。

今、バカンスでミラノ近郊のガルダ湖に来ています。ロミオとジュリエットで有名なヴェローナの街の郊外です。ヴェネト州がすっかり大好きになりました!というのも、ミラノから車で一時間半で全くの別世界が待っていたのです。この地域はワインの生産地でもあり、見渡す限り葡萄畑が続きます。新鮮な空気の美味しいこと!今年は新型コロナウィルスの影響もあり、一週間と短いバカンスですが、家族でゆっくりしたいと思います。湖の周りは、本当に素敵なのです。

さて、本題に移ります。今回のテーマは「適応」です。なぜこのテーマを選んだのかと言うと、旅先で訪れた場所に感化されたからです。今回は、少しだけモンテッソーリにおける哲学的な「コスミック理論」のお話にお付き合いいただければ幸いです。目の前の子どもも、私たち自身も深く関係していますから、とても興味深いと思います。

ガルダ湖
ヨーロッパ最古の岩でできた自然の橋

滞在中の晴れた日に、ヨーロッパ最古の岩でできた橋を見学するため、ガルダ湖よりさらに北上し、山岳地帯までドライブして来ました。気が遠くなるほど遥か彼方に時間を遡り、今からおよそ12万年〜8万年前!!の北イタリアのこの場所に、滝から水流の圧力によって自然の橋が形成されたと言われています。

周りには、原始ネアンデルタール人が住んでいた洞窟がいくつかあり、暗くてとても狭い洞窟の岩壁には、壁画の塗料となった淡いテラコッタ色の岩石の断層が微妙にマーブル状に交じりあって、とてもきれいでした。

ガルダ湖
ネアンデルタール人が住んでいた洞窟

じっと黙って、暗闇の洞窟に入り、恐る恐る壁に手を触れてみると…。石が氷のように冷たく、周りには、水滴が落ちる音が響くだけ。こんなところに生きてたの?ととても不思議な気分になりました。

まるで、スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせるような原始の文字のない世界。人間が手を発見して、石を道具にして、火を起こし始めた時代のサバイバルの環境は、どんなに厳しかったことでしょう。

遠い文明の夜明けの灯火を灯したとされる人類の祖先の息吹が 真夏の山の冷え切った空気と混じり合い、その息吹が今でも微かに感じられ、500年前の中世でさえ近代であり、新しいと感じられるほどです。

余談ですが… 、イタリア文学を代表するルネッサンス期の詩人、哲学者、政治家のダンテ・アルギエーリは、この橋に感化されてインスピレーションを得たことが、後に「神曲」や「新生」を世に出すきっかけとなったそうです。

ガルダ湖
古代の植物の環境がそのまま残る原始の森

翌日、山奥の深い森の中の、滝がある公園も訪れました。この辺りは、自然保護地区で古代の植物の環境がそのまま残っています。ここにも数万年前の原始人たちの骨が発掘されたという洞窟や当時の狩りの様子が伺える熊の壁画がありました。

私たちは1時間のハイキングコースを選び、一番若い息子を先頭に、黙々と家族で大自然の中を歩き、時折、水辺で休みながら、古代の人々が暮らしていた原始的なジャングルのマイナスイオンあふれるきれいな空気を味わいました。

かつては原始人の子どもたちも、この滝で遊んだのでしょうか?文明の始まりに想いを寄せると、人間の子どもが進化を辿り、3歳までに成し遂げることの壮大さがいかに【環境への適応】を必要としているのかを思うのでした。文字に辿り着くのに、なんと数万年もの時間が必要だったのです。

人間の子どもは、生まれ落ちた時代、家庭、国の文化、言語、風習、食生活、社交性を学び、すべてを吸収して適応する能力を予め備え持っています。そして、偏見もなく、その場所を愛するのです。適応するためには、先ずは環境の中でのオリエンテーションが必要です。

オリエンテーションは、自分の体、居場所を環境を通じて探求をすることにより秩序を作り、子どもにとっては水と魚のような必要不可欠の要素となります。有名な話では、フランスのアヴィロンの人間の子どもがオオカミに育てられ、オオカミの吠え方や身体の動かし方を習得したという報告があります。後に発見されて人間の環境を与えられますが、夜になったら月に向かって吠えていたそうです。そして、適応することなくこの世を去っていきます。

それは適応にはふさわしい時期があり、その時期を逃していたからだと考えられています。モンテッソーリは、人間の子どものその特別な時期に吸収する精神が働き、習得に相応しい敏感期があると発見しました。「敏感期」とはある能力を習得する特別な時期のことです。「敏感期」について詳しくは、また別途述べたいと思います。

ガルダ湖
宿泊先の窓辺から見える景色

そこで大切になってくるのが秩序感です。例えば、大人でも家を出て、家の前のバス停の場所が毎回移動していたら秩序感がとても乱されます。もしくは、見知らぬ外国で地図を持たずに放っぽり出された姿を想像してください。自分はどこにいるのだろう?まずはこの確認を急ぐと思いませんか?

家庭でも園でも子どもたちは適応をスムーズにするために「秩序」を求めています。同じものが同じ場所にあること。新生児で言えば、同じ匂い、声、温度といったもの。これは時間の流れ、一日のルーテインでも同じです。

適応することに大人は苦労しますが、子どもはいとも簡単に新しい環境を制覇していきます。この洞窟の中で暮らした遠い祖先の子どもたちも、この場所に適応しながら、その時代の人として生きたのです。人類の夜明けのこの洞窟の中で彼らが生きていたと思うと、生命とはリレーのようなバトンで在って、繋がっていくものだと不思議な愛しさを感じました。

雨の日もあれば、晴れの日も。朝日が登って、夕日が沈む。彼らはその自然現象を観察して、なぜ?と疑問を持ち、いつしか手を使える人、考えることのできる人、サピエンスに進化して行きます。子どもたちもまさしく成長の段階でこのプロセスを辿るのです。

こういう壮大な宇宙観というか、ビジョンに触れると目の前の一人ひとりの子どもの生命が尊いものだと実感します。

ガルダ湖最後に滝の水の上にブランコがあり、(息子は僕は乗らない!と言い張りましたが写真を撮ってくれました!まさに思春期の子どもです。)私たち大人も童心に戻って、一瞬だけど、街の暮らしを忘れて遊べたことが最高の癒しとなりました。イタリアでも間も無く新学期です。新学期に子どもたちに再会できるのがとても楽しみです。

「適応」に関しておすすめの本をここに残しておきます。画像をクリックすると、アマゾンから直接購入できます。

137億年の物語


宇宙が始まってから、現在に至るまでの壮大なストーリーを地球的な規模で学ぶことができる図鑑のような本です。歴史は「点」ではなく、「繋がり」なのだと改めて気がつかされる大変内容も充実した、お勧めの一冊です。

とき 谷川俊太郎(絵本)

読み聞かせをするなら、4歳くらいからでしょうか。シンプルな絵と文章で、誰もが生きている「とき」の始まりから「今」という現地点までを優しく語りかけてくれる一冊です。

Le Origini dell’uomo(人類の紀元) イヴ・コッパン
絵本

318万年前の人類の祖先ルーシーの化石人骨を発掘したフランスの古生物学、 古人類学者のイヴ・コッパンによる、実体験から人類への想いを孫に語りかけるかのように描いた素晴らしい絵本です。2008年に子どもの本の権威ある国際的な賞、国際アンデルソン賞を受賞しています。

残念ながら、現在日本では手に入らないようですが、とても素晴らしい本なので、ここに私の手元にあるイタリア語版を紹介しておきます。こちらの絵本は画像をクリックしてもアマゾンには飛びませんので、ご了承下さい。

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